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2020 / 08
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八編の作品集。派手な本ではないけど、自分の生を求めて、諦めないでより良い生き方をもがきながら探す登場人物たちの姿は、刺激的で美しい。『美しい命の姿』が浮き上がってくる印象深い一冊。読み終えた後、清々しい気分になる

海の縁、まるで砂糖菓子、ジョジョは二十九歳、言葉さえ知っていたら、そうね、おりこうなお馬鹿さん、すてきな要素、地先の八編。
乙川優三郎著 徳間書店 2019.8.31


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【物語】
4冊目のシリーズ。9年目の信州の医師の主人公・栗原一止は、24時間患者受け入れ方針の一般病院から信濃大学病院へと勤務する舞台が変わる。万年新婚夫婦と人に言われる写真家の細君と二歳で股関節の故障で子供病院に通う愛娘小春の三人家族で「御嶽荘」に住んでいる。同じアパートの住人「絵描きの男爵」勉学に励む「学士殿」たちとの交流も楽しい。物語のキモは大学病院と一般病院の長所と短所を様々な患者への処遇の中で描き出していること。一止たちの「栗原班」(班長は北条先生だが研究専念の為、副班長の一止が治療上の班長)中でも四年目の消化器内科医師丸刈り熱血漢「利休」こと新発田(しばた)先生一年目の研修医「番長」こと立川(後、明快な言動「お嬢」こと鮎川研修医になる)その一止を中心に「栗原班」が大学病院の様々な規則や慣習、巨大病院故の患者に寄り添うということが出来にくくなっているシステムに異論と行動を起こす。夫と七歳の娘がいる、膵癌の29歳の母親・二木美桜(ふたつぎみお)との関わりや治療が、物語の核心的なストーリー。

【感想】
舞台が病院なので、命の生と死のことを考えさせられる。でも、痛く苦しいだけではない。諦めないで生きる想いへの励ましも、会話に出てくる上質なユーモアや信州の自然描写、豊富な酒の銘柄も興味深い。登場人物たちが交わす人生への知恵や先達の方々の言葉、例えば「勇気とは重圧の中での気高さである」というヘミングウェイの言葉が何度か出てくるのが印象的。読書の楽しみに満ちた、読後、胸の深い所に元気をくれる一冊。


「新章 神様のカルテ」 夏川草介著 小学館2019.2.5


【物語】
人事異動を断った酒井祐介。同期の出世頭と言われながら経営陣退陣の煽りを受けた羽村史夫。大阪支社から東京に来たいと志願して来たと述べる(実は深い訳がある)中川政夫。の、三人がイノベーション・ルームというリストラ部屋に集められた。部屋の室長江崎三郎。
異動間も無く祐介のパソコンだけに「ニワトリは一度だけ飛べる」という不思議なメールが送られて来るようになる。理不尽な会社のやり方に、不協和音の人間関係や思惑、個人の事情を抱えながらゲリラ戦を展開していく…。


【感想】

この世界の理不尽な出来事にたいして、よく生きるために戦う思いを持っている人への励ましに満ちた一冊。ニワトリは頑張っても飛べないと決めつけて、あきらめ切って生きるのでなくチャレンジの気概を持とう。知恵と愛と勇気を結集して生きよういう思いが込められた、読者を元気にしてくれる重松節の傑作!中島みゆきの「ファイト!」の歌声が響いて来るよう

『ニワトリは一度だけ飛べる』 重松清著 朝日文庫2019.3.30





老舗製薬会社の47歳の総務課長青柳誠一は、妻子に出ていかれ離婚したばかりか、会社のリストラ対象にされバレエ団に出向して世界的プリンシパル・高野悠が踊る公演「白鳥の湖」を成功させよと業務命令を受ける。そして、同じ会社がサポートしていた陸上の有力選手・鈴木舞が、突然妊娠し引退。彼女のトレーナーだった瀬川由衣もバレエ団で高野の担当をする命令を受ける。高野の体調不良。演目の変更。売れ残ったチケットなど問題が山積み。果たして公演は成功するのか?

公演を実現させていく過程、関わる一人ひとりの生きる姿勢や思いがリアルで、熱く訴えかけてくる展開に引き込まれて、最後までワクワクした。踏んだり蹴ったりの青柳、瀬川が、未知のバレエの世界でどう生きたのか。バレエ団のメンバーながら本番のバレエにもう一つ自信が持てずに悩む高崎美波。バーバリアン・Jという四人のボーカルとその他パフォーマーダンサーからなる人気ユニットのスピリッツというバレイ専門外の下部メンバー、水上那由田が公演の主要メンバーとなったリ…。様々な人たちが失意の壁を前にどうしたか…。そして、真剣に人を恋する思い…。青柳が美波を励ます場面は特に印象的だった。

おススメの一冊です。

「カンパニー」
伊吹有喜著 新潮社 2017.5.20


世界遺産に登録された屋久島。15年以上前に旅行者として「縄文杉」に会いにいった。島で民宿「晴耕雨読」を営む長井三郎さんの36のエッセイが収められたこの本を読むと、知らなかったことがたくさんあった。島の生活者の視点と言葉が時に爆笑を、時にしみじみとさせてくれる。例えば「縄文杉」と僕らが呼んでいる樹は、地元の岩川貞次さんが昭和44年(1966)に発見、彼が「大岩杉」と命名したが新聞報道の時「縄文杉」なっていたとか。現在「竜王の滝」と呼ばれる滝は、昭和6年(1931)地元の藤村喜三さんが到達し「喜三(きそ)の滝」と島の人は呼んでいたとか、又読み返したくなる一冊。

読んで感じたこと。
嬉しく楽しくきれいなことも、怖くて危険で目を背けたくなることも出て来るこの本には、
「自然や生と死」が日常の暮らしの中にあるということ。「自然としての人間」の生き方を、改めて考えさせてくれた。


ボクの中では、「日日是好日」と並ぶ名著。

「屋久島発、晴耕雨読」長井三郎著
野草社刊 2014.7.10





高校生の時、江藤楽器の板鳥が体育館のピアノを調律に来る。
その音に魅せられて調律師を志して、江藤楽器に入る外村が主人公。
これという正解のない調律の世界。
どんなふうにすればと悩みながら、先輩たちの調律する姿を見て模索する。
「何ひとつ無駄なことがなどをないような気がすることもあれば、何もかもが壮大な無駄のような気もするのだ。
ピアノに向かうことも、今、僕がここにいることも。」
(P120)などと思う。

調律って何だ、美とか、善いものって何だと落ち込んだり、喜んだりの初々しく一途な彼を応援したくなる。
外村が調律の世界て目指す、作家の原民喜の言葉がとても味わい深い。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
(P148)
ジャンルは違うけど前回読んだ「愛なき世界」に通じるものを感じる。
派手さはないけど、しみじみと心に寄り添い温めてくれる作品。

「羊と鋼の森」宮下奈都著
文藝春秋 2015.9.15

しをんさん。いつもながら目の付け所が、独特。
「舟を編む」の辞典編集といい、この植物研究といい、地味で目立たない人の営みを、面白く描き出す
視点と哲学に楽しみつつ感心する。

この物語は、大学の研究室で地味な植物研究に恋し熱中するヒロイン本村紗英。彼女たちの大学研究室の近くにある洋食屋「円服亭」。店の見習いの藤丸陽太は、出前するなかで植物研究に関心を抱くとともに、本村に好意を寄せる…。
「植物研究」という地味な舞台を、三浦さんが描くと楽しい興味深い世界になる。


限りある人間の命という運命。でもニヒリズムの囁きには目もくれず『本当の事が知りたい、真実に近づきたいという生命の営み』を、肯定し励ましてくれる印象的な作品。

心にとどめたいフレーズ。
実験目方法に悩むう本村に藤丸がいう。。
『レシピ本に書かれたとおりに作って、予想したとおりの味になったときより、「こんな料理になった!」って意外なときのほうが、まずいもんができたとしても、楽しいです。だから俺は、本村さんもこのまま実験をつづけてみたらどうかなと思うっす。うれしいとか楽しいって感じたんなら、結果が失敗でも後悔はしないっすよ。「また次、もっとおいしい料理を作ろう」って思いながら、俺は激まずの失敗作を食べる派です』(P337)本村は、この助言で本来の実験や研究の意味と在り方を思い起こし研究を続ける。

料理に情熱を持つ藤丸は、彼女に二度ふられても、植物研究に一途な本村の良き理解者だ。
人のように愛も恋も無縁な植物、「愛なき世界」を生きる植物の研究にすべてを捧げるという本村。でも植物の本当の世界を知りたいという情熱、その気持ちを『愛』っていうんだ、あなたは愛ある世界を生きていると、本村に語る藤丸の目は深くて優しい。

最後の場面。本村の大学で開催された植物研究の合同セミナーのため依頼された大量の料理を店の大将と作りきって好評だった夜、眠りにつく前に藤丸が抱く思い。「俺たちはみんな、光を食べて生きている。いつか死んで、土や灰になっても、人類が絶滅しても、地球上ではきっとこれからも、光を食べて生きる生命の循環は続いていくんだろう。確かに不思議だ。生き物がそれぞれ持つ精妙な仕組みが。どうして植物や動物が生まれたのかが。生まれたのになぜ、すべての生き物が必ず死を迎えるのかが。そして、行く手に死が待ち受けていても、どうしてみんな、暗闇ではなく光を生きる糧とするのかが。」(P446)

幸せな気持ちで眠りにつく藤丸の優しさが、ボクにも快眠をくれた。
おススメの一冊!

『愛なき世界』 三浦しをん著
中央公論新社。2018.9.10


本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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