2012 / 05
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(話はというと…)

調理車に改造した軽のワンボックスカーで「佳代のキッチン」の屋号を掲げて「いかようにも調理します」と木札をかけて食材を持参する客の依頼に合わせて一品500円で調理する佳代。
旅先の清水を使っての料理にこだわって調理しながら全国を回る。
それは、佳代が中学三年生の時に弟と自分を置き去りにして家を出た、両親をさがしてその足跡を追うため。
今は新聞記者になった弟と連絡を取りながら、東京から北海道まで調理をしながら全国をまわる。
旅先で様々な人と出会い食を介して触れあいながら両親を探す。旅の中で徐々に浮かんでくる両親の実像とは。その結末は…。

「キャベツの子」「ベア五郎」「板前カレー」「コシナガ」「井戸の湯」「四大麺」「紫の花」の7話からなる。


(思った)

佳代がつくる料理が美味そうで、食べたいなぁと思いつつ読んだ。
旅と共に見えてくる両親の実像。そこには「理想」とは何かというテーマもも見えてくる。
でも、料理と旅とそこで触れあう人たちとの物語が楽しかった。
全7話のうち、独立したばかりで経営が苦しい「板前割烹 宇佐美」の勝彦さんが、悩みながら板前のプライドに目覚める、京都が舞台の第三話「板前カレー」が好きだ。

(「佳代のキッチン」原宏一著 2011.12 祥伝社)

はるりんどう3

◆ここをアップできなかった、へろへろに疲れる期間も本は読んだ。
続けて読んだのは、大島真寿美さん。

「やがて目覚めない朝が来る」から「チョコリエッタ」「香港の甘い豆腐」「ピエタ」「青いリボン」
「虹色天気図」「ビターシュガー」「戦友の恋」。

疲れる毎日で、電車の中で寝ぼけて読んだので、はっきり内容を覚えてはいない。
でも、読み続けたのは「生きることはまんざらじゃないよ」と作品の中で励ましてくれたから。
生の裏側にある「死」が意識がされている作品も、読みごたえがある。

この「ふじこさん」も彼女の最近読んだ作品。
他に「夕暮れカメラ」デビュー作「春の手品師」の二編。

(お話)
◆ 大人になったリサが、小学生高学年のころ出会ったふじこさんのことを回想した物語。
両親の離婚話や、未来が見えない、夢や希望と無縁、疲労、毎日が辛く苦しく絶望して自殺願望だったリサ。
偶然、別居している父のマンションを訪れて、ふじこさんという父の彼女と出会う。

オープンでまっすぐなふじこさんに、惹かれ彼女と会うことが待ち遠しくなる。
全方位的に受け入れてくれる彼女と過ごした宝物のような時間の話。


(思った)
◆ ボクもリサとおんなじように、ふじこさんにとても惹かれた。
読んでいて心の風通しがよくて気分がよかった。

一番印象的だったのは、「自分の宝物」ってなんだという話。

ふじこさんが見つけた宝物。それはイタリアに住む職人がつくった椅子。
「デザインの奥深さに感動」して、今の仕事を辞めてイタリアにいって最高の仕事をしたくなったと
ある時リサに話す。そのキラキラとした美しいふじこさんの表情が、読んでいて浮かんでくる。
リサにはわからないけど、それが、ふじこさんの「自分の宝物」。

しずこさんが言うのに、宝物は人それぞれ違う。
この世にある「宝物」は、「宝箱」に入っていて、誰が見てもわかりやすい訳じゃない。
「自分の宝物」は「さりげなくそこらへんにひょいっとある」それを自分で探すことが大事。
リサもいつか、リサだけの宝物に会えると、ふじこさんは彼女に語りかける。

人との出会いの深さや歓び、生きがい。
そんな「自分の宝物」を見つけられる歩き方をしたい。

大島さんいい作品、サンキュ!


(「ふじこさん」大島真寿美 著 2012.2 講談社文庫)

◆ 写真は愛知県森林公園「はるりんどう」。

(物語)
◆死にそうに多忙で通院しながら働く職場。信頼していた恋人の予期せぬ心変わり。
なんにもやる気がおきない「うつ」と診断される由人。

◆貧困な家庭に育ち愛のない結婚と出産をするが、子供と家庭を捨て家出する。
その後会社員として働いて、やっとつくった会社。
そこで猛烈に働いたが倒産し、自殺を図る由人の会社の女社長・野乃花。

その時TVニュースで流れていた、湾に迷い込んだクジラを見てから死ねばいいと
由人に自殺を止められる。

◆二人でクジラを見に行く途中、正子という高校生を車に乗せる。
彼女は、幼い姉が子供の時に亡くなったため、過剰に干渉する母親がいた。言いつけを守りながら息苦しい日々を過ごしていた。
やっとできたクラスメートの友人・海老君。
その姉・忍に自由な空気を感じ親友になるが、彼女は重い病気で亡くなる。
そして海老君の転居。
その喪失感と絶望感から家出して町を彷徨っていたとき、野乃花に声をかけられた。

三人で「迷いクジラ」を見に行く旅が始まる…。

(思った)
三人それぞれの日々を描いた三話と、訪れた町で出会った人たちとの出来事を描いた一話。全四話からなる。

中で正子のことを描いた三話目「ソーダアイスの夏休み」が好きだ。
正子の多感な時を両親が傷つける。
その両親も、傷を背負って生きている。正子に、海老君や忍が自由の空気をくれる。
なのに死という永遠の別れがあり、海老君も転居していく。
この哀しみや喪失感が読んでいて切ない。

クジラを見に行く旅の中で、訪れた町で語り合いながら、お互いの過去や抱えている哀しみ痛みを知っていく。
一人自分だけが、この世界で哀しみを背負っているんじゃないことを。
あり得るかもしれない別の生があると思ってみる。

◆生きることが大事だという込められた作者の思いはとても大切だと思う。
この物語の登場人物たちは、この後どうやって生きて行くんだろう?
読者の僕らは?

「死ぬもんか」の思いを胸に、命を自由に輝かせる明日を探して生きたいとおもった。


(「晴天の迷いクジラ」窪美澄著 2012.2新潮社)





五条
「本屋大賞」になっても、ならなくても。昨年読んだピカイチ!

図書館で借りて二度読んだ。
自分で買って三度読んだ。読むたびに新鮮で読書の楽しさを感じた。

◆(お話)
手っ取り早く利益を生む週刊誌でも華やかなファッション誌の編集部でもない、「大渡海」(広辞苑クラスの辞書)をつくる辞書の編集部が舞台だ。
営業部にいた、変人で地味だった主人公・馬締(まじめ)が辞書編集部に配置換えされ、言葉への強いこだわりや愛着が、醸成され長い年月を経て辞書をつくる話。


◆(思った)
読むたびにいろんな発見があって、面白さが詰まっている。

ある時は、馬締(まじめ)の恋文に笑い、その純情におおっ!とおもったり。

ちゃら男キャラにみえる編集部の先輩・西岡の恋の話や辞書への彼らしい愛着の持ち方を読んで「こいつ!好きだなぁ〜」とおもったり。

編集に関わる人たちが辞書を編纂する長い日々や粘り強さに≪不屈の精神≫を感じたり。

馬締(まじめ)の生き方を読みながら、僕らも人生っていうとらえ難い辞書を編んでいるのかも…と思ったり。

装丁もうまい!
辞書「大渡海」の装丁がこの小説の表紙でもある。表紙をしげしげと見たり。

表紙カバーの下の本表紙に、登場人物たちのイラストが描かれている。見ながら小説の場面を視覚的に楽しんでみたり。このイラストの作者が描くコミックが、ぜひ読んでみたいと思ったり…。

…楽しさてんこもり。


(「舟を編む」三浦しをん著 2011.9 光文社)

◆ 写真・2012年愛知県岩倉市五条川にて

本が好きなこと。向田邦子がすきなこと。
いかにこの作家が素敵か。
題名の通り、向田邦子の全集の月報に寄せられたという文章「ぼくはこんなふうに向田邦子を読んできた」や放送の「私のこだわり人物伝」で取り上げた「向田邦子が書いた男と女の情景」や太田光が選ぶ「読む向田邦子」ベスト10や同じく「観る向田邦子」ベスト10等向田邦子の魅力が満載だ。

彼女の本を読んだことがないボクも、ぜひ読んだみたくなった。


◆「向田さんの作品は、不道徳である、と思う。」
(「奇跡のような小説 思い出トランプ」P8)

「思い出トランプ」について書いた、書き出しの文章。
この書き出しから向田作品が、いかに深くて魅力的かを、グイグイと自分の立ち位置と、言葉で書いていく。
爆笑問題の芸人として初めて観たのは「ボキャブラ天国」というTV番組だった。
その言葉の豊富さと、意表を突くギャグに大笑いしていた。
この本を読むと、向田邦子を読み解く言葉の中に、この芸人の中の鉱脈の大きさとか背景が見えて興味深い。
言葉の豊かさ面白さが、濃縮されているのだ。

◆「自己表現とは、自分を表すことではなくて、自分を消すことだ。表現における自由とは、不自由を受け入れることだ。本当の自由とは、自由と決別する覚悟をすることだ。その覚悟が相手を守り、自分を守るのだ。向田邦子は、少女の頃から、それを知っていたのだと思う。」
(「向田さんの愛し方と誇り 眠る盃」P37)

「眠る盃」という向田さんのエッセイに描かれるものから、向田さんの生きざまや魂の動きを読み解いて、上のような文章が紡ぎだされる。

心に響くことばたちが、いっぱい棲んでいる本だ。


いくつもの、ハッとさせられる表現にあふれている。
太田光がくれた 今年最高に面白かった一冊。


(太田光著「向田邦子の陽射し」2011.8文藝春秋)


◆(物語)

32歳の山守未紀は、3年つきって、結婚を夢見ていた男から別れを告げられる。

会社では顧客に、思いっきり本音でキレて退職する。

彼女は、経験はないけど勢いで借金をして、カフェをひらく。

ところがやってみると、さまざまな問題が…。

心で描く店の理想と、経営の困難の板挟みのなかで揺れながら、店を盛り上げようとするが…。


◆(おもった)

物語の中に、ボブ・ディランの「コーヒーもう一杯」の歌が出てくる。
旅の無事を祈る一杯、という意味の慣用句をもじった歌の話だ。
題名も、ここからつけられたのかもしれない。

夢見た結婚は果たせず、会社を辞め、店もうまくいかない。
まさに「なんにもうまくいかないわ」(彼女の他の著書)という状況。
人生は、思いがけないつらい出来事や、うまくいかないことの連続攻撃なのかも。

でも「…にもかかわらず」明日への旅に歩きだす。
「失敗をかさねながら、人生が豊かになっていくのさっ!」てなぁ心持で歩かなきゃね。

そんな、思いをくれる一冊。

(平安寿子著「コーヒーもう一杯」新潮社2011.10)


◆中三から30代まで、音楽で駆け上がる夢を追い続ける三田村礼二や、バンド仲間だった春日航(わたる)。

中学時代から、ふたりのマドンナ的存在の松下梨央(りお)。

音楽と恋と友情に疾走する青春の日々。


◆(思った)
とにかくスピード感がある。
退屈させない。
「美味い!早い!血が沸騰する!」ってな感想です。
ボクもバンドを組んでたことがあって、音楽への思いとかステージでの高揚感だとか、
バンド時代が懐かしく甦ってきた。

作中で礼二が歌う「風の彼方に」みたいに、
人の魂に響いてくる命ある歌が、とても聴きたいなぁ…。

武士道シリーズの誉田(ほんだ)さんが放つ、わくわくと楽しい音楽小説。

(誉田哲也著「レイジ」2011.7文藝春秋)

本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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