2008 081234567891011121314151617181920212223242526272829302008 10
好きだ。うまい。
心のときめき。痛み。焦燥。歓び。
大事な一瞬を、すくいとっている。
ひまわり、コスモス、椿、桜の四季の花々に、
からんだ人々を描いた四つの短編。

サマバケ96
中学三年の夏、対照的な性格の二人・ユカとアンナが計画した、最高の夏休み…。
さて、どんなことに…。

大量のヘビ花火を二人でやって、枯れたヒマワリのかさかさという音をきく。
過ぎ去っていく夏に抗うユカの焦燥が眩しい。
過ぎていく時を,、止めたいなぁという思いが伝わってくる。


コスモスと逃亡者
知恵遅れの、たからは、家の窓から見える荒地とコスモスを眺めながら、
働く母に守られて、指示された買い物をコンビニでして、過ぎる日々。
「わたしってなんだろう」。
このまま、これからも生きていくんだろうかと思っている。
ある日、近くのアパートでカラスに呼びかけている男にあう…。

庇護を受け、部屋の中に籠って生きるだけじゃない生き方を宣言する最後が好きだ。
「ちゃんと土を踏んで、風に当たって、あのコスモスを見るのだ。」(110)と。
雑草のように省みられない私。
でも、守られるだけじゃなく、もっと色んなものを見られるんだと母に告げる
たからの歩き出そうとする思いを、応援したくなる。


椿の葉に雪の積もる音がする
中学二年になった、雁子は思い出す。
小さい頃から、年に一回ほどの眠れない夜は、おじいちゃんの布団にもぐりこむ。
すると、雁子を眠りにいざなう、おじいちゃんの呪文の言葉。
それが「椿の葉に…」。
おじいちゃんは、庭に咲く「藪椿」を縁側で眺めるのが好きだ。
ある夜、おじいちゃんが倒れて入院する…。

それまで見慣れた姿と違う病室の無言のおじいちゃん。
声がかけられなかった雁子と弟の雪助。
椿は、雁子や弟が知らない、おばあちゃんのアイさんが好きだった花だと、後で知る。
最後の場面、おじいちゃんを失った空白感
痛切な雁子の姿が、心に痛い。


ボクと桜と五つの春
勉強が苦手な上、口下手な吉谷純一には、友だちもいない。
小学校五年生の時、塾の帰りの夜。
道路沿いの高い板塀の向こうに若い「桜木」を発見する。
それから五度目の花が咲いた年、一新されたクラスの中に、
桜の気配を感じるカナハギさんに一目ぼれして告白するが…。

誰も見ていない場所で花を咲かせ、年と共に成長して、塀の上に顔をだす桜。
仲間といても流されず、強い意志で自分の道を目指すカナハギ。
そして、就職と共に家をでる吉谷。
桜やカナハギの姿が、彼に自立への思いを持たせたんだろうなと思った。
最後の場面で、カナハギが吉谷に告げた本音。
自分を見つけてくれる、ほめてくれる人。
大事だなぁとも思った。


 「劣等感を持った主人公&別れ」が、印象的に描かれている四篇。

(豊島ミホ著 「花が咲く頃いた君と」 双葉社 2008.3)





東京に来て、大学生活をおくる男女の、笑いと、ほろっと、むむっ!な日々。
読み出したら、これは、ドタバタの軽薄学生ドラマかなと思った。
もっと、自分の軽薄さに磨きがかかると、ヤバイなぁと思いつつ、恐る恐るページをめくる…。
読みすすむほどに、心をほぐす、オモシロドラマの世界が…。

◆三年生になるまで、何にもして来なかった反省として原田の突然の呼びかけで、
部屋に入り浸っていた同級生二人と彼は「童貞メガネーズ」を結成する。
そして、誰も振り返らないキャンパスで、お笑いライヴを始める
「デブ、しゃくれ、若ハゲ」の陸奥男、仁田、原田の三人。
この小説の他の作品にも出てくる、彼らのお笑いライヴの場面にちゅうも〜く。
(見ろ、空は白む)

◆田舎町から「世の中をよくする」自分を夢見て大学にきた道子。
入学式の喧騒の中で、優しく毅然とした先輩・及川緑にジャンヌダルクの
面影を感じて惹かれる。「正しく賢いやり方じゃない」とクラスメートから
評されるサークル「不戦をうったえる会」に入って、自分の無力を感じながら
、緑と共に歩き出す道子。
(いちごに朝露、映るは空)

◆高校時代の失恋のトラウマに懲りて、大学に行ったら「サクッと賢く生きよう」
と、勢いだけで付き合いだして、かわいいみゆちゃんとデートをするが、しっくりしない。
やがて、軽くなりきれない自分に気づいて、みゆちゃんと別れて歩きだす長浜。
(雨にとびこめ)

◆映画サークルの会議で「女性向けピンク映画」を撮りたいと、所属していた
サークルの脱会宣言をする継代、まるちゃん、香純。
脱会して、意気揚々と、映画の男優スカウトを始めるが…。
(どこまで行けるか言わないで)

◆いつも「ほどほど」でガマンして、地道に生きる四年生の貴理子。
人とのかかわりを避け、成績・優を目指してきた大学生活。
それが自分にお似合いだと思う一方で、飽き足りなさも感じていた。
四年生で始めて参加した、クラスコンパで思いのたけをぶちまける。
(リベンジ・リトル・ガール)

◆学生作家として、大手出版社の文学新人賞を受けたが、自分の今後に自信がもてず、
就職活動をする三島だったが、迷いながら、やはり文学の道を歩こうと決意して言う。
「…やっと一輪の花を咲かせることができた時、それを誰かに拾ってもらえればいいなと思う。」(275)と。
(花束になんかなりたくない)

以上六編を収録。
他にも印象に残るキャラ。「目だけ柴犬の暴力団員」のような顔の角田。
サークルのピンク映画の男優になるアズマ。
「童貞メガネーズ」のファンクラブから始まって、あれこれ変転のある星子など。

■読んでいて、自分の学生時代を思い出した。
当時のクラスメートたちを、思い出した。

印象的だったのは、角田が「童貞メガネーズ」たちのことを語る場面。
何もして来なかった、自分たちを変えたいと、彼らがキャンパスで始めたお笑いライヴは、
(聴衆に)十人居て九人が笑わず、無視されても、彼らは続けたんだなぁ…と。
新しいことを始めて、続けた彼らのことを語る、この場面がいい。

この物語に出てくる、冷笑や劣等感などは、学生時代に限らず
、生きている様々な場面に顔を出す。
何かを始めること。続けていくこと。
軽やかさと気合のミックス。大事だなぁ。

(豊島 ミホ著 「神田川デイズ」 角川書店 2007,5)