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 以前読んだ「風が強く吹いている」の描いた駅伝。
そして今回の「文楽」。勝手に名づけて「動と静の二部作」。
文楽に、まったく触れたことのないボクに、未知の世界の話を楽しく読ませてくれた。
しをん! あんた ただもんじゃ〜ねぇ… 。

◆ 健(たける)太夫は、やんちゃだった高校の修学旅行で鑑賞した「文楽」に
魅せられてこの世界に入った。
女好きで、しきたりなどには大らかだが、芸には厳しい人間国宝・銀太夫師匠の三番目の弟子だ。

彼は、300年以上の歴史があるといわれる「文楽」の真髄に迫る
太夫(語り手)を目指して稽古に励んでいる。
ある日、健(たける)こと笹本健太夫は、無愛想でプリンが好物な
「実力はあるが変人」と評判の三味線弾き、兎一(といち)こと、
鷺澤兎一郎(といちろう)とコンビを組むように、師匠から宣言される。
 入門して10年間、一度も、話したことがないうえに
「特定の太夫と組むつもりはない」と言い放つ兎一。
そんな男とのコンビの行く末は?
兎一が以前に一度だけ組んだという、月太夫とは?

 健たちが週一回、文楽指導ボランティアとして行っている小学校の生徒・ミラちゃん。
その母親の真智に抱く、健の一目惚れの恋の行方は…。

◆「幕開き三番叟」(まくあきさんばそう)
◆「女殺油地獄」(おんなごろしあぶらのじごく)
◆「日高川入相花王」(ひだかがわいりあいざくら)
◆「ひらかな盛衰記」
◆「本朝廿四孝」(ほんちょうにじゅうしこう)
◆「心中天の網島」(しんじゅうてんのあみじま)
◆「妹背山婦女庭訓」(いもせやまおんなていきん)
◆「仮名手本忠臣蔵」(かなでほんちゅうしんぐら)

八つの文楽の演目と、健の日々と芸への精進がクロスしつつ
物語が進んでいく。
入門10年目から14年目への歩み。
次第に重要な場面の語り手として、更なる芸の真髄に迫ろうとする健の修行と恋。

◆ 「仏果」は「さとり」という意味。
簡単にさとりに到達できない混沌の日常。
さとれないからこそ、少しでも近づこうと精進する健。
「文楽」の演目に登場する人物の行動や言葉やしぐさに、今の自分の生き様
を重ね、時を越えて近松などの、文楽の作者の真意をさぐろうとする。
その健の生き様や言葉が、元気をくれる。

◆ こんな言葉が出てくる。
「ほかのものの芸と比べてではなく、自分の中にある理想の語り、理想の音に、負けたくなかった。
どうせ届きやしないと諦めて、怠惰に流れるような真似はしたくない。
銀太夫はその気概を持ちつづけて、今の芸境に至った。
そうありたいと願う健は、全身で銀太夫の声を感受しようと努める。」(P121)

こいつ、やるじゃんと思う。
さとりを得て歩みを止めるんじゃなく、混沌の中を手探りで生きて
いつも理想への思いを描いて歩く。
そいつぁ〜豪儀だぁ〜〜な〜ぁ〜。(笑)


(三浦しをん著「仏果を得ず」 双葉社 2007.11)