2008 081234567891011121314151617181920212223242526272829302008 10
そうか、なるほどと思った。
大仏次郎の作品を読み解いて書かれた評論
「鞍馬天狗のゆくえ」(相川美恵子著 未知谷 刊2008.6)を読んでいたら
「弱いものに導かれていく先に幸福を見たいという大仏の姿勢」(P163)
という言葉があった。

それは、重松清 作品の真ん中を流れているものでもあるなぁと思った。
この季節風シリーズの最初の作品集に収められた「春」にまつわる12編も、その味が満載だ。

◆ 父親入院の借金におわれながら、働く母が、やっとの思いで私に買ってくれた
小さな「おひなさま」の想い出(めぐりびな)

◆ ドラフトで指名されプロ野球選手になった野球部の先輩、野口さんが、戦3年後、クビになって郷里に帰ってきた。中学三年生の川村は、コーチを依頼する手紙を、自宅に投函するが、本人に怒鳴り込まれる。
付き合っていた、ショコが川村に言う「がんばれば夢は必ずかなうって思ってるでしょ」(48)
「がんばってもどうにもならないことって、たくさんあるんだよ」(50)。
再就職をする野口や、プロに誘ったスカウト、走り高跳びに挑戦するショコたちとの
ふれあいのなかで、何かが少しわかってくる川村…。(球春)

◆ 時の流れの中で消えていくけれど,忘れられない想い出。(島小僧)

◆ 自分自身も苦しいのに、わがままいっぱいだった自分に注いでくれた母の優しい眼差し。
(よもぎ苦いか、しょっぱいか)

◆ 長距離便大型車の運転手、ナベさんが、一人息子を事故で亡くしたときつくった地蔵。
運転手たちが、全国から運んでくる桜の花びらを全身にかけられる、お地蔵さんの話。(さくら地蔵)

◆ 故郷を出て東京で暮らしていた河村健一が、酔ってホームから落ちて亡くなる。
自分とよく似た境遇と44年間を思い、自分自身の影を感じ、お墓参りのため実家を訪ねる
フリーライター。(霧を往け)

◆ 小学校のとき交通事故で両親を亡くし、容姿はパッとせず、人と会うのが苦手な、一人暮らしの36歳の和生の部屋に日曜日の朝、マガツオ一匹をもって、30歳の翠が訪ねてくる。結婚したいと強く望んでいる相手だが本音が言い出せない…。
「ひとり」と「ひとり」が、ゆるやかな「ふたり」になる。
「ずっと一緒に乗ろう」(284)という会話が印象的。(目には青葉)

など次の12篇。
「めぐりびな」「球春」「拝啓、ポンカンにて」「島小僧」「よもぎ苦いか、しょっぱいか」「ジーコロ」「さくら地蔵」「せいくらべ」「霧を往け」「お兄ちゃんの帰郷」「目には青葉」「ツバメ記念日」 
「めぐりびな」「目には青葉」が特に好き。

◆◆ この作品は、強者礼賛ではなく、哀しい結末を迎えた人への鎮魂だったり
失意の気持ちによりそう眼差しだったりする。社会的に成功者といえないかもしれない
親であったり、子供であったりする。
よく言う、強者でも勝ち組でもない人たちの人生が、読者のボクの心ををじんわりとさせたり、
元気をくれたり…。そこに、何かしら豊かなものが息づいているのかもしれない。
◆◆

(重松 清著「ツバメ記念日 季節風・春」2008.3) 



 犬じゃなく、猫の話が重松さんらしい。
二泊三日でいろいろな人の所に行く、レンタル猫の話。

◆ いろいろな種類の猫が出てくる。
三毛・メインクーン・マンクス・ブラウンクラシック・雑種・ブラウンクラシク・タビー
ロシアン・ブルーなど、文章から猫たちの仕草や表情が浮かんでくる。

それぞれの猫たちが出逢う人間模様。現在の生が語られる。
・不妊の夫婦の話。(花粉症のブランケット・キャット)
・三回の離婚、末期癌、心ならずも大切な小さな会社の資金を横領してしまった女。
(助手席に座るブランケット・キャッツト)
・自分を守るために、いじめた同級生の自殺未遂。自己嫌悪に悩む少年と家族。
尻尾のないブランケット・キャット)
・老人ホームに行く祖母のため、彼女が好きだった亡くなった猫の代役としてレンタル猫された家庭。
(身代わりのブランケット・キャット)
・ペット禁止のマンションの、大家が借りてくる憎々しげな猫の本当の姿とは。
(嫌われ者のブランケット・キャット)
・猫の視点から語られる異色の一編。
借り出された女の車から逃れ、家出した兄姉と旅をすることになった猫のタビ―が
「俺は何のために生まれてきたんだろう」と自分の命のルーツを考える話。
(旅に出たブランケット・キャット)
・リストラされ、一戸建ての家の売却を迫られる家庭の人間模様。
(我が家の夢のブランケット・キャット)


◆ 彼の作品を、読み終えると「幸せ」のことを思う。
「生きる意味」を思う。
最初いやな奴に見えた、大家が抱いている孤独と、物語後半で、
タッくんにかけた言葉が光っている「嫌われ者のブランケット・キャット」。
猫の視点から語られる「旅に出たブランケット・キャット」が特に印象的だ。

◆ 印象的な言葉の一部。

「だが、笑顔を浮かべられなかったことも思い出なんだ…」(320)

「猫は大切なものを失ったら、困ることしかできないけど、人間は違うの。
大切なものがなくなっても、それを思い出にして、また新しい大切なものを見つけることができるし、
勝手に見つけちゃうものなのよ、人間は」(326)


(重松清 著「ブランケット・キャッツ」 朝日新聞社 2008.2)