2007 / 11
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 随筆の叙情性。ミステリーの謎解きの高揚感。命を巡って展開される哲学的思索。生物学の実験と思索の論理性。オモシロ要素をいろいろ含んだ傑作。

印象に残ったのは、「時間の再発見」と「命の一回性」いうこと。

◆命の秘密を探る長い実験と思考の末に、ケヤキを例に引きながら言う。樹の内部で行われている
「動的な平衡のふるまいは、時間に沿って滑らかに流れ、かつ唯一一回性のものとしてある。」(P269)と。

◆(生物と無生物の差異について)、
「機械」は、どの部分からでも作れて、完成した後からでも部品交換が出来る。
それに対して、「生物」の「内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って
折りたたまれ、一度、折りたたんだら二度と解くことのできないもの」
(P271)と両者の所以を述べている。

◆(時間の不可逆性)
 精巧なエレベーターが乗っていても、動きすら感じさせないことがあるように
「時間という乗り物は、すべてのものを静かに等しく運んでいるがゆえに、
その上に載っていること、そして、その動きが不可逆的であることを気づかせない。」(P269~270)
 
 何気なく過ぎていくボクラの日々。
二度と戻れない「時」の中に、ボクラの命の今がある。

…と感想を書きながら、なんとまぁ、当たり前なことを…と。
でも、こつこつと積み重ねられた、命を解き明かそうとする探求の末に、到達した事実。長い研究者たちの積み重ねられた歳月と実験と思索の果てに見えてきたある到達。この世界は、未知だらけ。

 笑ってしまったのは、分子レベルで、ボクらの肉体は半年とか一年ですべて入れ替わってしまうということ。人は挨拶で「お変わりありませんね」というけれど、分子レベルでは「お変わりありまくりなのである」(P163)と書いている。命は、科学でも文学でも、面白いことだらけだ。


(福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書2007,5)



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「東京バンドワゴン」という古書店の家族と人間模様を、四季の移ろいの中で描いた人情ドラマの傑作。

 八人家族と、猫4犬2の大家族の個性が楽しい。
79歳の頑固者の店主・勘一。60歳の伝説のロッカー・我南人。
その実子の姉弟、姉は未婚の母・藍子と娘・花陽。
その弟でフリーライターの紺には、親の反対を押し切った妻・亜美と息子・研人がいる。
我南人が愛人に生ませた、プレイボーイの男・青もいる。
 そして、勘一の妻で76歳で死去し、今は空から、この家族を見守っているサチ。賑やかで生きる活気にあふれている家族たち。食事風景も楽しい。

◆毎朝、店先に置かれては消える百科事典の訳は?。
(「春・百科事典はなぜ消える」)
◆青の花嫁になりたいと、女性がやってくる。その正体とは?
未婚の母・藍子の過去とは?(「夏・お嫁さんはなぜ泣くの」)
◆本の鑑定を頼まれて出向いた先。朝、目覚めたら前夜に値札をつけたはずの本も、依頼した水禰(みずね)さんの姿も消えていた、その訳は?(「秋・犬とネズミとブローチと」)
◆冬、近づく青の結婚式。長年音信のない本当の母は現れるのか、我南人の愛人でもあった母の正体とは?(「冬・愛こそすべて」)

以上の四編を収録。「秋・犬とネズミとブローチと」が、一番好きだ。

 古書店という設定が本好きにはたまらなく嬉しい作品。登場人物たちも個性豊かで楽しい。
とても優しいドラマだが、子供たちが「道草」もしづらくなった、哀しい世相も描かれている。
こんな時代だから、ただ悲惨で、引きちぎられた家族や人の姿を読みたいとは思わない。
こんなふうだったったらいいな。人はこんなに面白い。
…の思いを豊かにして、心を飛翔させるような物語が読みたい。
この物語は、心にじわじわと沁みてくる暖かさがある。
 
 サチさんは、亡くなっている立場から、生きているみんなを見守っている。だから、直接「生」に触れられない、そんなサチさんに哀惜の思いで語らせる言葉が印象的だ。。
「生きていればこそいろんなことも楽しめます。」(P214)
生きていて、感じるあれこれを、命の糧にしながら楽しんで歩こう。

 (「東京バンドワゴン」小路幸也 2006.4 集英社)


「大きな熊がくる前に、おやすみ。」(島本理生著・新潮社・2007,3)

ボクの中の島本さんは、物語の強い印象より、端正で美しい描写を楽しむ作家だ。別れの悲しみを描いている作品でも、甘みのある湧き水を、手にうけて飲んだような清々しさが残る。心の動きと「生」の今を丁寧に描く作家。自然の豊かな情景描写と人が抱える思い、迷いや矛盾を見つめるまなざしが感じられて、好感が持てる。
三色の恋のはなしを収録。「大きな熊がくる前に、おやすみ。」「クロコダイルの午睡」「猫と君のとなり」。

「生きてるだけで、愛。」 (本谷有希子・新潮社・2006,7)
 以前なら、途中で放り出していたかもしれない。
好みじゃないのに、気になる小説。
見逃せない大事なことが描かれているから。

鬱で「過眠」の寧子(やすこ)の生きづらさが痛い。同居している男性・津奈木景(つなきけい)とは、まったく性格がちがう。精神的な凹凸の激しい寧子に対して、淡々と生きる彼。もともと不一致な人の性格。それでも、心をかさねようと、術を探す。
 見てしまった、相手に惚れる「一瞬のきらめき」が、それまで未知だった二人を見つめあわせる。
「生きているだけで、愛。」は、生きていることが当たり前ではない、生きづらさをかかえる寧子(やすこ)と、一緒に暮らす津奈木の事を描いている。

 本物の愛は、生きる力を刺激する。自分しか知らない、誰かの、一瞬の表情。それを知る。その意味を思う。それが、生きづらい時に灯りをともし、歩き続けようとする何かになる。
…生きづらい時ほど、深く強く、本物の思いに、心のピントを合わせる為の、あれこれをしよう。

そんなことを思った。

他に「あの明け方の」を収録。


四篇からなる。これは凶悪な事件は起こらない推理ドラマなのだ。
一癖あって強そう。でも、不安と哀しみを抱いている。
それでも現実と向き合って生きようぜ というガールたちの物語。
彼女たちの不思議な行動の謎が、物語の進行とともに見えてくる。

◆父の再婚によって、高校生の哲夫に妹が出来る。初めて顔を合わせた涼子は「がんぐろ」で登場して驚かすが、素顔の彼女は、美少女で学校でも話題の女の子だった。ある夜涼子は、雷が怖いと、哲夫を頼って彼の部屋に、逃げ込んでくる…。 (「竜巻ガール」)

◆妻に逃げられた詐欺師まがいの父と二人暮らしの広幸の家に、絵美という美人が突然訪ねてきて、やがて父と再婚する事になる。しかも、何故か絵美は家を出た母・静江と知り合いだという…。
 (「旋風マザー」)

◆三十代半ばの独身女性・由布子は、不倫相手・菅原部長とお忍び旅行に行くが、旅先の川で泳ごうとして菅原は溺死する。彼女は本妻や会社に事実を知られまいと、遭難の事実だけを宿に告げ、隠れるように帰宅する。
その後、最初の付き合いから不倫をしていると信じていたが、菅原が若く美しい今の妻と結婚したのは最近のことで、由布子とつきあい始めた二年前は、独身だったことがわかる。…。
 (「渦潮ウーマン」)

◆40歳前の今日子は、25歳の外国人・黄河と結婚した。
彼の入院の際に、彼女の目を避けるように、彼に宛てて、自宅でなく会社に、中国から大量の手紙が届いて会社のロッカーに保管されていたことを知る。
黄河にとって、自分はただの便利な女で、二人は愛情で結ばれたのではなかったのか。本国には妻子がいることを夫は、自分に隠しているのではないか と、懐疑と破壊的な気持ちを抱く。そんな時、今日子は妊娠したことを知る。はたして二人はどうなる…。
 (「霧中ワイフ」)

四篇とも面白い。
特に好きなのは最後の作品「霧中ワイフ」。
やるせなく心細い思いを抱いて孤独に沈みながら、彼女の心に流れているキーワードは
「(現実の怖さから)逃げてはいけない」ってこと。
他の作品に出てくる女性たちも、みんなタフな精神を持っているのだ。

読後感がいいのは、彼女たちがしんどい状況の中でも、前を向いて歩こうと意欲して、胸をはっている から。
つらくてやるせない時こそ、胸を張って歩く。
それが元気を連れてくると信じる。 大事だなぁ。


垣谷美雨著「竜巻ガール」(双葉社・2006発行)

読み終えて、感動に胸が打ちふるえた
……など、とういことは まるで無い。
あるのは、よく、こんな阿呆な小説を書けるものだ(誉め言葉でっせ)、そして、読むものだってこと。文中に頻繁に出てくる「阿呆の血」が、作者に書かせ、ボクらに読ませるのだろうか?

「阿呆の血を引く四兄弟」と母の五狸の家族がいる。
兄弟のある者は蛙になって、井戸の中で引きこもる生活をおくる。長兄はここ一番でプレッシャーに弱くパニックになる。末っ子はすぐに化けの皮がはがれる気の弱さ という具合の家族たちである。

物語は、狸界の名誉職的な色彩の強い「偽右衛門」の座。偉大だった父・総一郎がつとめていたこの名跡だが、その父は、狸鍋としてあえなくこの世を去り、跡目を巡って、四兄弟の長兄・矢一郎 VS 父の弟・夷川早雲 の熾烈な跡目争い。勝利を得ようと夷川家が巡らす策略にひっかかり、矢一郎たち一家は大ピンチ。一家の運命やいかに!!
狸・天狗・人がいりみだれて巻起こす、はちゃめちゃ阿呆ストーリー。

それにしても…最後まで顔を見せなかった主人公・矢三郎の元許嫁の狸「海星」の姿を一目見たかったなぁ…まぁ いいか。

「面白きことは良きことなり」と言った父・総一郎の最後の言葉が、そのまま読んだ感想。
内なる阿呆の血が騒いだ一冊。
最後に、ここまで読んで下されたあなたに贈っちゃおう。
この物語の緊迫した会議?の冒頭、集まった狸たちに厳かに告げられた、
ありがた~い 「へそ石様」 からのお言葉。
「だんだん寒くなってきたゆえ、風邪ひかんように。風邪は万病のもとだゼ!」(P232) 
ってことで さんきゅっ!
 

森見登美彦著「有頂天家族」(幻冬舎・2007発行)


本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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