2008 / 01
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◆ 安心して楽しめる。
リストラ請負会社「ヒューマンリアクト(株)」に勤める村上真介の仕事と恋を描いた、前作「君たちに明日はない」に続く連作シリーズとの繋がりを思い起こして読むと面白い。
こんな仕事をする真介という男。
冷血漢で、金と出世に凝り固まった奴かと思えば、全くちがう。
なんせ、彼自身、この会社の被面接者として前の会社のリストラ対象者だったし、今の恋人の陽子は、真介が今の仕事で面接した、リストラの対象者だった。
そんな訳で、真介は、面接相手の心の痛みにも気を配り、丁寧に処遇しようとする。
又、彼より8歳上の陽子(43歳)は「人のクビを切る仕事を、ビジネスにする」と、真介の仕事に批判的だ。恋人同士でも、思ったことを言い合う二人の会話は漫才のように笑える。
真介の会社の社長・高橋は、尊大さの無い、人間をよく観察する魅力的な人物として登場し、真介の面接補助者・川田美代子も一見「白痴美人」のようだが、その存在には魅力がある。

◆ 全5作品の内、「借金取りの王子」と「人にやさしく」が特に印象的だった。

真介は依頼されて、様々な業種の面接をする。
「二億円の女」(百貨店外商部)「女難の相」(大手生命保険会社総合職)
「山里の娘」(温泉旅館)など、仕事の内情や場面が描かれていて面白い。

 「借金取りの王子」の舞台は「消費者金融」だ。TVでは、ソフトなCMを放映しているが、仕事内容も新人研修も軍隊式だ。
ノルマを達成出来ない店長を、呼び出して人間性を貶めるような、激烈な脅しを含む「店長研修」の様子も描かれている。

「借金取りの王子」は、大学を出て、消費者金融「フレンド(株)」に採用された三浦宏明と、最初に赴任した小岩1号店の店長・池口美佐子との仕事と恋の物語だ。
 慶応卒でイケメンの三浦に、池口は「王子」の呼び名をつける。
当時彼女は四つ年上の26歳、中学時代から筋金入りのヤンキーで、単車の免許を取るとレディースを結成し、地元暴走族との乱闘で保護観察処分、夜間高校を中退する。故郷を出て、仕事さえ出来れば、学歴も男女差もないと考えて、今の仕事に就いたという経歴の持ち主だ。
 「王子」こと三浦は風貌などから、顧客に安心感をあたえ、貸付実績はトップだが、回収は苦手だった。優しすぎると池口から注意される。
池口は、一時間おきに上部から店長にかかってくる罵倒の電話にもめげず、部下への、口の悪さはあるが、プレッシャーは一身に受け、部下に一度も八つ当たりしない公平な上司だ。

三浦は、二年半後、昇進を断り続けた店長になるが、本部が求める実績は上がらず「店長研修」に呼び出される。
この場では「相互の意識改革」と称し店長同士が罵倒しあう。
ある時、珍しく池口が呼び出され、罵声を浴びせられる。
しかし、彼は罵声をかけることが出来ず、沈黙する。
なぜ声をかけない?と本部長から追求されるが「ぼくには、言えません」と言い切る。

部下の信頼が厚く、実績もある三浦への面接に、気分の重い真介の姿に、その会社の非情が透けて見える…。

三浦と池口は、その後結婚することになる。
そこに至る二人の姿と「本気」の愛情が心を揺さぶる。
これは彼女の口調を真似て言えば「安くない心の繋がりの物語」だ。
何が人生に大事なのかを描いていて絶品だ。


◆ 「人にやさしく」はブルーハーツの歌の題名。
この物語の最後に車の中で流れる歌だ。
リストラの仕事をしながら、真介が何を考えているかが、とても出ている。
「企業の一方的な都合だけでリストラされた社員も多くいる」と感じている
真介の行動とは? 興味深く読んだ。

◆ 真介のような仕事の主人公を描くのは難しい。
この物語は、リストラを美化する作品ではない。
恋の軽さではなく、思いの深さを描いている。
これからも、続編を描いて欲しいシリーズだ。

(「借金取りの王子」垣根涼介著2007,9)




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◆ 優しすぎるから犯罪を犯し、愛しすぎるから別れる。
一見相反する思いと行動をする人間という生き物。
定規や数字では計れない、心の葛藤や矛盾がある。


「出会い系サイト」を舞台にしたこの物語を読みながら、改めてそんなことを思った。
主人公をはじめ、登場人物たちの生い立ちや暮らしや価値観が丁寧に描かれている。
例えば、主な主人公の清水祐一は23歳でいくつかの仕事を経て、土建屋で働いている。
外見は髪は金髪で赤やピンクの服を好み長身で外見は格好いいが、実は寡黙で人付き合いが苦手で生真面目な性格。母に置き去りにされて、祖父母に育てられた。
車が好きで、病院に通う祖父の通院の足になっている。
「出会い系サイト」での、石橋佳乃、馬込光代の二人との出会いは、哀しみと歓びのドラマだ。
息をつかせない面白さ というのは、こんな本のこと。
(本を読み終えた、あなたはどう思う?)
最後の場面で清水祐一が、馬込光代に示した行為は、清水の芝居なのか、本人の本質的行為なのか。
どっちだろうね?

◆ 「悪人」という題名は、バイオレンス小説の響きがあるが、人の愚かさと素敵さを描いた愛の話でもある。
哀しいのに、人間の奥深い命や愛の力を感じさせる。
その心の振幅・矛盾を熱を持った作品として描いている。鮮やかだった。


(吉田修一著 「悪人」 朝日新聞社 2007.4)

◆  中学生二年の沢村幸彦は、友だちと思っていた綾瀬涼平に、突然、急斜面にけり落とされて重傷を負い、右足の後遺症が残って、大好きだったバスケットボールが出来ない身体になってしまう。
そして、死ぬ程の重症を負わせながら、加害した涼平からは、その説明も無く、会うことも出来ない。
突然の不合理な事件に、周囲に心配をかけまいと、家族やクラスメートに、元気いっぱいな姿を振舞って来たが、心の中は周囲の幸せそうな姿に嫌悪感を抱いていた。
家族の励ましに、重荷を感じていた。
療養後、一学年遅れで復学した学校で、化学オタクの中川京一や、同じクラスに寡黙で片目に眼帯をした中川かごめに会う…。

◆ 不合理な突然の出来事にあったとき、人がどんな思いを抱いて生きるのかという大切なことを描いている。周囲に合わせて元気を装ったり、怒りをぶつけたり、死を考えたり…。
辛くて落ち込んだとき、中川の励ましの言葉を使わずに、さりげなく彼を支えてくれる態度。
寡黙だと思っていた、かごめの多弁な別の姿に触れる…。

◆ 人は生きている中でいろいろなものを失って「穴が開いていく」「だけどぼくには新しい何かが違う場所に付け加えられていくだろう」(153)彼は逞しく生きていこうと決める。
綾瀬の兄と合い、涼平は「大事なものを壊す悪癖」があったということを知る。
父親が母と別れて家を出て行ったとき「いつか」なんてないんだと、大事だった父が作ってくれたおもちゃを壊した涼平の思い。
幸彦は、もやもやと生きるのではなく、綾瀬涼平に会って自分が直面する問題と真っすぐ向き合うことを決める。
「この世に大切で頑丈なものはある。必ずある。」(231)と伝えたいと思いながら…。

◆ 物語の中に登場する「やつら」とか「さかなたち」の意味が伝わってこない。
大切なテーマを描いていることは感じたが、家族・クラスメート、そして中川やかごめの人物描写を、もっと整理して深めて欲しかった。
今後は、本物の「でかい月」を見るような、大きな面白い物語を書いていって欲しい。

(水島サトリ著「でかい月だな」集英社 2007,1)



◆ 上手いのだ。じんわりと心に沁みてくるのだ。
八篇の短編が、良質な、落語の人情話噺を聴いたときのように 心を温めてくれる。
華やかで陽気なだけではない、芸人たちや寄席の世界。
TVのバラエティからは見えてこない様々な表情。その息遣いが聴こえてくる。
芸人や寄席が好きだから書ける、吉川さんにしか書けない絶品の一冊。

◆ この本の中で印象的な作品。
なじみ深い名古屋・大須を舞台にした老芸人の流転を描いた「大須望郷唄」。
かつてTVで観た、変幻に帽子の形を変えて笑わせる芸人・早野凡平。その芸への情熱と死を描いた「ホンジャマーの帽子」
廃業した、百年以上続いた寄席への愛惜を、小説の想像力で幻想的に描いた「人形町夢模様」
◆ 他に「本牧亭暮色」「梅田恋時雨」「池袋二人酒」「末広番外地」「浅草祭囃子」の八編。

(吉川潮 著 「千秋楽(らくび)の酒」芸人小説セレクション第4巻 講談社文庫 2007,12)


◆ これ以上、鈍感になってどうするんだろうと思っていたら、面白い題名の本が出た。
写真だけでなく、文芸、音楽プロデュースなど表現にかかわる分野で活動する著者の
人間論・文化論。

◆ 表現することを、生業にしているだけに「感じること」の大切さを語り、表層の奥にある「何故?」に目を向けることの大切さを語っている。
面白かったのは「詩人」のことを語っているところ。
「美しいと言ってしまえば済むことを、美しいは使わないで、美しさを超える美しいを伝える表現ができることによって詩人が存在する」(159)
絵画も「きれいな色を使って、きれいなものを写し取れば美しいかといえば、そんなことはない。そこが表現のむつかしさ」(同)。

そこには、表現にかかわる芯を探して、もっと深い何かがあるはずだという問いかけや、個性を刻み込もうとする意志がある。

◆ もう一つ。自分をあるがまま見て、コンプレックスを感じとり、自分という存在と向き合うことで、新しい視野が開けるんだと感じさせる部分があった。
「恵まれた人が必ずしもいいプレーヤーになれないっていう、逆説になりますが、恵まれているからです。(中略)恵まれている人は、恵まれていることに気付かない」(27)

感性をもっと磨いて、明日を作れるようになりたいなぁ~な~んちゃって…。

(浅井愼平著 「反・鈍感力」 朝日新書 2007,10)




◆ 伊坂幸太郎の小説を映画化した作品。
家庭裁判所調査官をしている、真面目で几帳面な武藤俊介(坂口憲二)と、先輩調査官で無茶苦茶な言動の陣内達也(大森有朋)のハードな日々。

◆ 武藤が担当し、更正したはずの少女が、再犯して再び姿を見せる。再犯の理由を問われて、彼女は言う。反省したように振舞えば、調査官をだますのはわけないことだと。その言葉に落ち込む武藤。
一方、先輩・陣内は「人の人生の面倒が見れるか。仕事は、適当にやっときゃぁいいんだ」と言う。しかし、かつて担当し、更正した青年が働いている居酒屋に飲みに行った時、酔客たちが「青年の凶悪犯罪を更正させるなんて、奇跡のようなもんだ」と話している。その酔客たちに「俺たち奇跡を起こすんだっ!」と言い放ったりする。店の外に出て武藤と歩きながら、奇跡なんて起きるわけないだろうと、さっきと逆の事を言ったりするいい加減に見えるキャラだ。
一見すると、無頼にみえる、陣内に人を深く観察する眼が潜んでいる。カッコいいのだ!
「絶対だといいきれることが一つもないなんて、生きている意味がないだろう!」とも、言っちゃうのだ。ドラマは、銀行で武藤と陣内、書店で働いている青木美春(小森真奈美)が、お面をかぶせられた状態で強盗の捕虜になるところから始まる…。

◆ 家裁の調査官の仕事を舞台に「人間なんていい加減な生き物。嘘ばっかりだ。何やったってムダ!ムダ!」っていう声と「間違いはするけど、人間はまんざら捨てたものじゃない人は更正して生まれ変われるんだ!」という、人間をめぐる葛藤が、このドラマの芯を流れている。
型にはまらない、陣内の突飛な行動の面白さ。生真面目で落ち込みつつも陣内の影響をうけて直球で温かい目で子供たちにも、美春にも接する武藤の爽快さ。その武藤の諦めない姿に、眠っていた心の目を覚まして歩き出す美春。笑い、平凡に流れない仕掛け、胸に残る言葉の光…。伊坂ワールドを忠実に描き出した源孝志監督の爽快な作品。





◆ 年の初めにピッタリの一冊だった。
95歳という年齢に関係なく、次の映画を撮りたいという現役の映画監督・シナリオライターが語る、今を生きるこだわり。

◆ 先に逝ってしまった、大切な人たちを振り返るときも、回顧だけではなく、今を生きることに繋がっている。殿山泰治や乙羽信子。彼らは、今も好奇心を与え、心が錆びないようにしてくれる存在だと語る。亡くなった後も、心に生き続ける、大切な人との出会いの意味を、改めて思った。

◆ 一番心に残ったことは、彼が漱石の文学の事を語り、それに関連して生きる姿勢を語っているところ。
漱石の精神は、利己主義とは違う「自尊の精神」だということ。
自分を大切にして生きることが、他の人を尊ぶ気持ちにつながる。

◆ いろいろと考えさせられた。よく言われる「自立の精神」という言葉ではなく「自尊の精神」という意味のことを。
ボクは本来の意味で、自分を大切に生きているだろうか。
ここで言っているように、自分を信頼して、尊いと思える日々をかさねて生きている人は、すごいと思う。日々の出来事を、ただ通り過ぎる風のように感じるのではなくて、自分の体の中に取り込んで咀嚼して、それを糧にして、過去を今に、今を未来へと、繋げるそんな歩き方をすることが「自尊の精神?」「それって具体的にはどんな生き方なんだろう?」 
などと、次々にいろいろなことを思う。

◆ いつの間にか、本の言葉が自分に棲みつく…
この本は、改めて「いのちのレッスン」の時をくれた。サンキュな一冊!

(新藤兼人著 「いのちのレッスン」 青草書房 2007,5)



新年おめでとう!
今年もオモシロ本バンバン読むぞっ!

(2007年、ボクのオモシロ本!)

1「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎
2「精霊の守り人」上橋菜穂子
3「獣の奏者」上橋菜穂子
4「東京バンドワゴン・シー・ラブズ・ユー」小路幸也
5「青い鳥」重松清
6「君たちに明日はない」垣根涼介
7「ミーナの行進」小川洋子
8「渾身」川上健一
9「調理場という戦場」斉須政雄
10「生物と無生物のあいだ」福岡伸一


◆ 昨年の収穫は上橋菜穂子さん。「守り人」シリーズ(10冊刊行)の最初の一巻が二位。それと年末に読んだ「獣の奏者」もすごい。一位の伊坂さんの本は、笑いもスリルも爽快感も、マジなテーマもぎゅっと一冊に濃縮。こ~い小説。重松さんは「カシオペアの丘で」も読んだけどこちらが印象に残った。大好きな川上さんも本の名前通りの一冊。八冊までが小説。九位は言葉もわからずに単身でフランスに渡って料理修行した料理人の話。仕事論としても、人生の歩き方としても面白かった。

◆ さて、今年。
四巻以降の「守り人」シリーズをゆっくり楽しむことと、書いた作品の少ない人の、オモシロ本を探し出して読むぞっ!

◆ あなたの2007年のオモシロ本は? 左下リンク「本の♪大雑談」でザツダンしましょ!

たとえば …

雪深い 寒さの真ん中 に

身を震わせながら たたずむ日

 も

春の 陽光に 
 
こころ あそばせながら…。

2008年 だね。


本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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