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◆ 野依仁恵(48歳)の、夫・卓己は53歳でガンで亡くなる前に、仁恵に、五年続いている愛人・原口志生子(45歳)の存在と連絡先を告げる。
志生子には、放蕩の限りを尽くし、離婚し、遍歴を重ね、最後に孫ほど歳のちがう女性と同棲した父親がいる。
その父は今、入院して意識なくベッドに横たわっている。
いらだちと愛おしさの入り混じった思いで、志生子は、時々病院を訪れている。
卓己は、父のことを話し、都合のよいとき会ってきた関係だ。

突然・志生子の元に、卓己の妻と名乗る仁恵から、電話がかかってきた。
彼女は「仲良くなりたい」というが、志生子は、愛人としての後ろめたさや、妻へのこだわりがある。
あけすけで強引な仁恵に、これは、妻からの自分への復讐かと、接触を避けたいと思うが、
仁恵は、家に来たり、一緒に旅をしようという…。

◆ 卓己の死から始まる物語。
でも、シリアスなだけの物語にならない。
仁恵と志生子の会話が面白い。
志生子の立場からは苦い思いも、どこか笑いを誘う。
妻と愛人だった二人のことが描かれ、生と死のことが描かれている。
切なさや哀しみを帯びながら、哀しさだけで終わらない平節が、あたたかい読後感を残す一冊。


(平 安寿子著 「さよならの扉」中央公論新社 2009.3)


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これは、すごいエピソード付きの本なのだ!
いつもの朝の通勤電車。乗り合わせた30代くらいの女性が
左隣の席で本を読んでいた。よく行く街の図書館の本だ。
表紙が、チラりんと見えた時「ウヒャ~!」と、絶句しそうになった!
なんと、ボクが次に読むために予約している本だ。
この人が読みおえたら、連絡が来る。
「面白い?その本?次はボクが読むんでっせ!」 思わず、声をかけそうになった。
人口8万人あまりの街で、同じ図書館で、同じ本を借りた二人の出会い。どまんちっく。(笑)
まるで「奇跡のビンゴ」って感じ。

◆ さて、この本は、最近、ここに載せた「リンゴが教えてくれたこと」(木村秋則著)がでる前に
ライターの石川拓治さんが、木村秋則さんと周辺を取材して書き下ろしたもの。
「リンゴが…」の感想で前に書いたように、木村さんは、農業の常識のように信じられている
「リンゴ(農産物)は農薬と肥料なしに育たない」という考えを覆した人。
見事にリンゴを実らせ、今では、外国までまわって、農業指導をしている。

でも、そこに至るまでの苦難の連続がすごい。
畑の惨澹たる状況。「カマドケシ」(「暮しの破綻者」を表す津軽弁の渾名らしい。)と呼ばれるほどの、凄まじい生活の困窮。村八分に近い扱いや「バカがうつる」などという陰口。
万策尽きたと思って、自殺を企んだ山中で、大きく彼を変えるヒントを得る。
枯れかけていたリンゴの木が、満開の花を咲かせるまで8年の歳月がかかった。
それまでの、波乱万丈がすさまじい。
本人が書いた「リンゴが…」と併せて読むと、オモシロさがUP。(出版社の回し者かぁ。笑)

本書は、石川さんの丁寧な取材と文章が見事。木村さんのユーモアたっぷりの
津軽の語り口も楽しめる。後半の挿入写真の、木村さんの柔和な表情も、とってもいい。

◆ 一番思ったこと。リンゴを育てること。人が育つこと。
どっちも、表面には見えにくい隠れた「命の根っこ」を元気にすることが
大事なのかも。


(石川拓治著「奇跡のリンゴ」2008.7幻冬舎)

紫陽花と菖蒲3


◆ 物語は、f郷に転居し、f植物園を職場とする佐田豊彦が、「うろ」(くじら注・空・虚・洞などと書く=うつろな所。ほらあな。出典・広辞苑)に落ちて、気を失って過ごした、夢ともうつつともいえない二日間の、不思議な出来事を描いた物語。

独特の古い言葉の言い回しが難解で、理解できない箇所もあった。
例えば、彼の仕事は「園丁」という。
これは園内の手入れをする職業だそうだ。初めて聞いた。
このような言葉が他にも出てきた。
前世が犬だった歯科医の家内。ナマズの神主。烏帽子をかぶった鯉。
など、不思議なキャストたちが出てくる。

「うろという巣穴」の世界に居るとき、彼は、妻が四ヶ月で流産して、出会うことのなかった子供「道彦」と会う。
会話を交わして、別れ難い思いを抱いたりする。そして別れ…。
そして、この世界に還ってくる。

◆読んで感じたこと。あらためて、命のはかなさのことを思った。
だからこそ、大事な一回性、替えがたい一人 だということも。
よく語り遊んだ友人を思い出した。
幼馴染で、進路を話しながら一緒に通学した同級生の従兄弟も。
突然、逝ってしまった。
そして、今の親しい人たちのことも思った。

◆ 人は生きている間、同じ外見に見えても、内面は、新しく生まれかわるのだと思う。
命のいとしさ、哀切な感情を深く感じる体験が、人を見えない「巣穴」に導くのかもしれない。
目には見えない。…でも、生まれたばかりの雛のような、初々しい心に生まれ変わって、
日常の中を、巣穴から飛び立っていくのかも…。


(梨木 香歩著「f植物園の巣穴」2009.5朝日新聞出版)



青竹

◆ 通っている図書館の途中に、竹薮がある。
宮崎アニメの初期作品に「パンダコ・パンダ」という作品があって
「特にあの竹薮がいい~っ!」という、名セリフが浮かぶ。

それはともかく。
竹薮の側を通りかかったら、竹の子が伸びて、皮が離れたばかりの青竹を見つけた。
その竹が発散する、輝くような精気を感じて、しばらく見とれてしまった。

◆ さて、この作品。
「茶道の美」のためには、仕えている秀吉に頭を下げず、命を投げ出してしまう「利休」を描いている。
彼の求める、美とは何か?
何が、彼を突き動かしていたのか?
時や空間を変えて、彼を嫌悪する人、敬愛する人など、様々な視点から描いている。

 物語の鍵とも言うべき「緑釉の香合」(※くじら注⇒緑の上薬で彩られた、香料を入れる容器)が出てくる。
利休が持ち歩きながら、めったに人に見せない。
秀吉が多額で買い取ろうとするが断る。彼は不興をかうことになる。
謎めいた美しい「香合」が、物語をミステリアスで奥の深いドラマにしている。
「しっとりと深い緑に輝いている」「見飽きない絶品」と表現される香合の色が、青竹の緑にダブる。
こんな色だった、のかもしれないと。

◆ 美にとりつかれた男・利休のルーツと歩み。若い日の哀しい恋。
彼を尊敬しながらも嫉妬した秀吉との微妙な関係。
美を求める誇りと生への虚無の影など相反する人の心に棲んでいる矛盾を描いた人間ドラマとして。
謎を握っている美しい「香合」を巡る、推理ドラマとしても、面白かった。


(山本 兼一 著 「利休にたずねよ」2008.11 PHP)


菖蒲2

◆ ゼネコンではなく、一戸建ての家を建てる小さな「鍵山工務店」で働く二人の女性を描く。
その二人とは、成り行き上、父が起こした工務店の社長になる47歳の郷子。
求人情報誌の副編集長を辞め恋人とも別れて、この工務店で働き始める30歳の梨央。
面白いのは二人とも男との縁が、この道で働くことにつながる。
(梨央は、トビの親方・徹男に助けられた出会いから、彼にあこがれてこの仕事に近づく。)
二人とも、外から眺めていた頃と大違い。
建設業界の中で、働いてみると、施主からのクレームや職人の手配に四苦八苦する梨央。
会社の責任者になったものの、働けど一向に経営は楽にならず、他会社との合併を専門家から勧められる程で、会社経営にジタバタする郷子。
さてさて、どうなる…。

◆ 本の題名は、落語「寿限無」の中に出てくる一節。
そして、家を象徴する言葉。
彼女の描くヒロインは、しんどいことがあっても、シャンと背筋を伸ばして生きている。
既成の生き方に飽き足らない。かっこつけるのも似合わない。
どこか抜けているているけど、憎めない。

この作品のヒロインたちも。
熱情的な梨央と、醒めた経営者の視点を持つ郷子で交わされる二人の会話も楽しい。
読んでいて、気持ちがいい。

◆二人が交わす「家」談義も楽しい。
梨央は、雨風をしのぐだけでなく、家族の思い出が宿り、「心の入れ物」が家で、
そんな家を作る「やり甲斐」や「喜び」が、生きるエンジンになると言う。
梨央を見ていると、人生を悲観一色に塗りつぶすのは、つまらないと思う。
こんなセリフもある。
「現実はシビアに決まってますよ。でも、そのシビアさに踏みにじられてばっかじゃ生きてけないでしょう。九八パーセントはシビアでも、二パーセントは夢が叶ったとか、やり甲斐を感じる瞬間があるはずですよ。そうじゃなかったら、誰もこんなくそったれな人生を生きてませんて。」(226~227)

◆ 家を作る作業の中で使われる「養生する」という言葉や、トビの親方・徹男や設計者のセーノさんたちに共通する、職人気質の中に「家を生き物扱いする」精神を見る。

◆ カラカラになりそうな気分の時、彼女の作品を読むと元気がでる。
「必死で過ごした大混乱の日々が腐葉土になって、そこから何かが芽生えかけている」(254)
「大混乱の日々」も良い土をつくっていて、「芽」を育んでいる時だと考えようっ~と。
気分、ゆったりで、いこう!


読んでよかった「寿限無」な一冊。(笑)

(平 安寿子著 「くうねるところにすむところ」文庫2008.5文藝春秋)


若き紫陽花


◆ 私(田島)の妻・圭子は、中学校教師としてこれからという40歳を前にして、ガンで亡くなる。
彼女が小学5から中学生五年間を過ごし、ふるさとのように思っている「希望ヶ丘」という街に、
天真爛漫な小5の亮太と、クールながら家族思いの中三になる美嘉と、三人で引っ越して、
塾の教室長としてのスタートをきる。
子供たちの学校生活。
現代の塾や学校を取り巻く教育事情。
家族が知らなかった圭子の多感な季節の足跡。
(彼女を好きだった元生徒会長で、今は、学校クレイマーの妻の尻に敷かれている「チクリ宮嶋」。
彼女があこがれていた「エーちゃん」と、その娘マリア。
彼女が習字を習っていた瑞雲先生。
親友のフーセンこと香織。その夫でギター好きの藤村さん。などの人間模様がからみあって、
飽きのこないオモシロさ。)

とにかく出てくる人物が魅力的で、グイグイ惹きつける。
これまで読んだ重松さんの作品の中で好きな作品。

◆ 思ったこと。
あらためて思う、人の出会いの不思議。
この物語で言えば、初めて知る中学時代の多感な圭子の姿。
それがいきいきと、今も彼女を知る人の中で生きている。
時ってもの。思い出ってもの。が、人に残す意味の大きさを思った。

◆ もうひとつ。「希望」のこと。
つまりは「希望」は人のことだ。
その歩き方だ。
圭子が憧れていたエーちゃんがいい。
歳を重ねて、髪が薄くなっても、体に肉がついても、やっぱり、かっこいい!

「希望」は、額に入れて飾ってありがたがるものじゃなくて、陽と風と雨にもまれてさらされて、ぼろぼろになっても消えないものが、そう呼ぶに値する。
「希望」はりスクを、背負いながら求めていくものなんだ。

このドラマに、笑いや優しい涙と共に、中心を流れているのは、そんなことなのかも…。

印象的な登場人物・エーちゃんは、名セリフを連発する。
彼は中学の屋上で子供たちに言う。
屋上には、人生と同じで屋根がない。
「人生は吹きっさらしだ!」
めんどうで苦労も多いけど「ときどき気持ちのいい風が吹くんだ!」(477)


キマッタ!
厚い本。でも、読む価値ありの一冊。
気持ちのいい風 吹くかも。(笑)

(重松清著「希望ヶ丘の人びと」2009.1小学館)



紫陽花と菖蒲
この本を読むと、ボクは
どこまで本気で、言葉を使っているんだろう。
と、思う。
「言葉」ともっと親しくなったら、この世界と、もっと親しくなれるのかも。

現世で手に触れることのできるのはからだだけであるとしても、
ことばをもつことのできた人の心は、
この世ならぬものまでを日常の中にまざまざと描き出す。
人間は他者のからだ・心を媒介にして、
自らの死を超えて宇宙に恋することができる。
(P233)

(谷川 俊太郎 著「谷川俊太.郎の問う言葉答える言葉」 2008.12 イースト・プレス)

◆写真は、菖蒲から、勝負を挑まれて戸惑っている紫陽花クン。
…ナンノコッチャ。


「奇跡のリンゴ」を読む前に、書店で見つけて読んだ。
これは、常識を覆した人の実践の記録だ。
これは、経済や農業の本というだけでなく、文学でもあり、哲学の本でもある。

◆ 彼が覆したもの。
「リンゴは、農薬と肥料なしに作れない」という常識。

リンゴの樹が、真っ白になるほど、散布する農薬。
皮膚がむけ、最盛期には、妻の美千子さんが一ヶ月も寝込むほどのかぶれ。
そんなことから農薬に疑問を持ち、リンゴを、無農薬・無肥料でつくろうと歩きだす。

そして、10年ちかい歳月を経て、花が咲き実をつけるようになるが、その間の暮らしの凄まじさ。
一向に成果が出ない木村さんの試みに、村八分や近所からの怒声。
「かまど消し」という厳しい声。二人の子供たちの学費にも困る暮らし。
キャバレーや出稼ぎでの日々。
万策尽きたと悩んで、自殺するつもりで踏み込んだ山奥で見たどんぐりの樹から、自然の土や環境が、リンゴにも必要なんだと啓示を得て、次の日から新たな実践を重ねる。
畑の土を山の土に近づけよう。樹に自然に近い環境を作ろうとする。
大豆を植えたり、樹の周りに雑草を茂らせたり…。
害虫といわれる虫たちの被害のリアルな観察と、農薬の効能の真の姿。雑草の役割とリンゴの生育のこと。当たり前と思っていた常識が「観察と実験の事実を通して、自分の頭で考える」木村さんによって覆されていく。

自殺の場で、木村さんが啓示を受けたことは、偶然じゃない。
諦めきれない、一見不可能に見える農業の理想への執着が、木村さんを
生のエネルギーに向かわせる。それまでの木村さんの本気の実践が、生への反転を
後押ししていると思う。

木村さんの観察と実験が、自然という書物の扉を開ける。
それまで、繰り返された、膨大な、実践と失敗の長い歳月の中から開かれたぺージ。
だから、自分と同じ失敗を繰り返して欲しくないと「自然栽培」を志す全国の人たちを訪ねている。「主人公は人間ではなくてリンゴの木やイネ」で「人間はそのお手伝いをしているだけ」だと伝えながら。

◆ 読んでいて思った。本気で学ぶ人ほど謙虚だ。
失敗がだめなんじゃない。失敗に負ける心のあり方が哀しいのだ。
自殺の誘惑から起き上がって、もう一度歩きだす木村さん。
そして、無農薬・無肥料で糖度が高くて、安全なリンゴを実らせる。
このことが、いかにすごいことかと思う。農業界のガリレオみたいだ。
自然とか農業を思うほど、大げさでなく、そんなことを感じる。
そして、かしこい消費者が、豊かな農業をそだてるのだと読んでいて感じた。
有機農法の看板がすべて、安全な食物を育てている訳じゃないこともわかった。

農業の本という世界を超えて、文字通り「実り多い」人生に美味しい一冊だった。味噌汁みたいに、飽きの来ない味わい。
サンキュ!の一冊。

(木村 秋則著 「リンゴが教えてくれたこと」 2009.5 日本経済新聞社・新書)

本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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