2010 / 02
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(お話)
◆ 人形を操ってチェスをする、伝説のチェスプレーヤー・リトル・アリョーヒンの物語。
決して、華々しくてカッコいい、逸話をもっている主人公ではない。
彼をとりまく暮らしは、哀しい別れに彩られている。
両唇がくっついた出生。
その手術で、脛の皮膚を移植し、唇に産毛が生える、それがもとで、いじめにもあう。
子供の時、両親が離婚し、同居した母親が突然亡くなって、祖父母に育てられる。
祖母に連れて行ってもらった、デパートの屋上にある立札が伝える象の話。
大きくなりすぎて、地上に降られなくなって、37年間、屋上で子供たちに愛嬌をふりまいて
一生を終えた象・インディラに、彼はいろいろな思いを巡らす。
そして、彼の住まいと隣家の狭い隙間に入って出られなくなった女の子が、人知れずミイラになり、今も壁に食い込んでいるという噂話に、寝る前のひと時、壁にいるというミイラに話しかける。
会ったこともないインディラとミイラが、子供の時の、彼の唯一の友達だった。
彼は、二人に思いを巡らせて、架空の会話を交わす。

ひょんなことから、バス会社の独身寮のバスの廃車に住む、寮の雑用係の男から「チェス」を教わる。
やがて、男のことを「マスター」と呼ぶようになる…。
リトル・アリョーヒンの生涯を描く、静かであたたかい物語。

(思ったこと)
◆ 暗く哀しい別れや出来事が、リトル・アリョーヒンに次々と降りかかる。
それでも、読後感は、ほんのりと温かい。
それは、彼が人の気持ちや命のことを、深く思いやり、読みとり、思いを巡らせる豊かな人だから。
彼はチェスに、試合に勝つ技巧だけではなく、一手一手の中に、音楽の音色を聴き、美しい色彩をみる。
そして、哲学も読み取る。チェスを教えてくれたマスターゆずりのチェスだ。

こんな一節がある。
「チェスは、人間とは何かを暗示する鏡なんだ」(76)
「相手が強ければ強いほど、今まで味わったこともない素晴らしい詩に出会える可能性が高まるんだ」(99)

もう一つ思ったこと。
人の「幸せ」と「哀しみ」。
二つは、明快に線を引いて分けられるものではなく、哀しみの中に「幸せ」があり、幸せな中にも「哀しい」出来事もある。二つが溶け合って、生は流れていくのかもしれない。
哀しみの真ん中にいても、歓びを紡ぎだす感性だって人は持てる。そうありたいと思う。

「慌てるな 坊や」という、マスターの幻の声が、ボクにも聞こえてくる。
心に響く言葉に出会えることも、小説の醍醐味だ。
平凡な言葉でも、作品の中の魅力的な人物が言うと、特別な言葉になって心に響く。宝物のような言葉になる。
自分を無見失いそうなとき、そんなマスターの言葉を、思い出すと思う。
「慌てるな 坊や」。

 何度も読み返したくなる。一人ひとりの人物に、血が流れている。命の鼓動が聞こえてくる。
豊かな言葉と、物語の面白さがつまった希有な傑作。


(小川洋子著 「猫を抱いて象と泳ぐ」 2009.1文藝春秋)


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(お話)
◆定年を迎えて、妻と理想郷を謳う「ゆうとりあ(ユートピアとゆとりをかけた名称)」と
名付けられ、売り出された山村に移住し、自家栽培の蕎麦打ちを目指す佐竹夫妻。
ヘビィメタ・バンド「O.G.B」(オヤジでゴメンねばんど)を結成して、ライブハウスで
演奏するなど趣味の世界に生きる河村。
熟年の離婚を妻から切り出されながらも、自分で会社をおこしてもう一旗を目指す北川。
さてさて、どんな暮らしでどんな現実が…。


(思ったこと)
◆最初は、退職後の三人の親父たちの身の振り方を描いた、
ドタバタコメディ小説なのかと思った。
電車で読んでいて、笑いがこみあげて苦しかった。

でも中心は、「ゆうとりあ」という村に夫婦で移住した会社人間だった克弘が、
人間と自然のあり方。
夫婦のあり方。
何が人生に彩りをあたえるのかを問いながら最後に四国の遍路の旅をする。
ふんだんに盛り込まれた笑いと、底流を流れ問題意識がつくる豊かな物語で、
最後まで面白く読ませてくれた。

一番思ったこと。
自然体で暮らす」って何だろう?
「自然な人間の姿」ってどんなあり方だろう?
そんな問いかけの中から、傲慢ではなく、謙虚な人間の生き方を考えさせてくれた。


面白かったぁ~。

(熊谷達也 著「ゆうとりあ」2009.3 文藝春秋)



ネットで彼女が、久しぶりにアルバムを出すと知った。
嬉しい!

かなり前「1/2」を聴いたときの興奮は忘れられない。
少年っぽくした原田知世みたいな彼女が、
ギターを激しくかき鳴らして歌う
アップテンポの曲。

心を刺すみたいで、官能的で、
自由へのはじけるような気持ちがつまった言葉たち。


聴いている空間いっぱいに、彼女の思いがひろがる。

「心の囚われ人なんかじゃ、面白い恋はできないっ!」
て言っているみたいだった。
生きるってことだって…きっと。


ネットでライヴ映像を観た。
お帰り!
嬉しっ!

♪ 唇と唇 
手と手と 
瞳と瞳 
神様は何も 禁止なんかしてない
愛してる 
 愛してる
  愛してる
あたしまだ 懲りてない
大人じゃ
わかんない ♪


(「1/2」)


久しぶりの豊島さん。

(お話)
◆小峰沙織は、入学した高校のクラスメイト・貫井孝子から、
むなしかった27歳の未来からやってきた。
高校生活をやり直して、未来を変えたいと告げられる。
冷静でイケ面の村山基和。ムードメーカーの大海ちひろ。
四人を中心にした青春の物語。

四人はどんな高校生活を過ごすのか。
孝子は、高校生活をやり直して、未来につなげられるのか?

(思ったこと)
◆「今」って、一度だけのかけがえのない時。
でも、その渦中の時には、それがわからない。

近くに、宝物のような人がいるかもしれない。
新しいものが、生まれているかもしれない。
なのに、気づかないで通り過ぎてしまいがちだ。
人間ってやっかいだなぁ。
それは、哀しみだけど、可能性でもあると思いたい。

「人生には、何もないかもしれない。どうせ、駄目なんだ。」
「人生は、もっと面白いかもしれない。きっと、何かがうまれてくる。」
人はその二つ思いのなかで、揺れながら生きる。

沙織の友情に触れて、孝子は気づく。
必要とされないダメなやつという価値観を越えて
「ただ、--自分が好きだと思う人やもののところに、向かっていかなきゃって」(346)
空しかった27歳の未来の人生の時に見落としていた様々な出来事に気がつく。
そして孝子は、後半でつぶやく。
「あたしはこのあたしで生きる。逃げたこと含めて引き受ける」 (382)

人は、ただ生きているだけじゃ「自分を生きている」とは言えないんだなぁ。
命の面白さに「気づく」ような、歩き方を探さなきゃ…。


(豊島 ミホ著 「リテイク・シックスティーン」 2009.11幻冬舎)


(物語)
◆ 津島サトルは芸高の受験に失敗、心ならずも新生学園高校の音楽科に入学。
フルート奏者の伊藤慧との友情、南枝里子との恋や文化祭での合奏の輝き…。

まぶしいような青春の輝きが…やがて、嵐の航海のような日々へ…
思いもかけないドイツへの短期留学、帰国後の強烈な失恋、南の退学。
その喪失感から大好きだった、教師の金窪を、卑劣な手段で退職に追い込んでしまう津島…。
孤独と喪失感が、津島の人生を激変させていく…さて…。

(感想のような)
◆ いろいろな出来事が、三冊にぎゅと詰まっている。
それは、青春の自意識も、きらめきも、喪失感も、挫折感も描いている…。
まったく白紙状態から、あれこれの反復と試行の末に、一つの演奏をみんなで作り出して
音楽を演奏する場面からは、熱い命が伝わってくる。

◆ 「船に乗れ」は、哲学者ニーチェの本の一節。
人は「自分の太陽の輝きを持つべきなのだ!」
そんな、新しい別の世界が見えてくる哲学を、船の航海者のように探し続けようという主旨の一節だ。

◆ 物語は、決して、キラキラのハッピーエンドではない。
その陰影の濃さが、苦くて味わい深い人生の時を描き出している。
豊かな読書の時をくれた一冊!

(藤谷治著「船に乗れⅠ【合奏と協奏】Ⅱ【独奏】Ⅲ【合奏協奏曲】」2008.10~2009.11 JIVE)


本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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