2010 / 09
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気持ちのいい場所・空間・居場所が欲しい。
みんなが、笑いあえる場所が、いっぱいこの世界に広がったらいいのに。
どうしたら、そんな人間の想像力とか、実行力とか、人がお互いを伸ばしあったり、育ちあったりできるんだろう。
この作品は、そんな問題も投げかけてくる。

◆(おはなし)
八頭森中学野球部の捕手・山城瑞希(やましろみずき)は小学5年生のとき、つれていってもらって魅せられた、甲子園に憧れる。しかし、小さな町の野球部には投手がいない。
エース候補だった峰岡豊志は、父の工務店の破綻により、借金を残して一家が夜逃げ同然にいなくなった。
その町に祖母と暮らすために作楽透哉(さくらとうや)が、親元を離れて別の街からやってきた。
彼が、ピッチャーとしてずば抜けた才能持っていることを、瑞希と部活仲間の田上良治(たがみりょうじ)は知るが、前の中学で、透哉はある理由から野球を辞め、不登校となっていた。
母のすすめで転校した、八頭森中学校にも登校する様子がない。
瑞希は、一緒に野球をしようと透哉を熱心に誘う…。

◆(印象的な言葉や思ったこと)
甲子園への強い夢を持つ瑞希。
その彼が、繰り返し語るキーワード。『しょうがない』。
その諦めの言葉に、足をすくわれたくないという思いが、印象的だった。


■『本気』と『しょうがない』について。

「…ほんとうの勝敗はどこまで本気で野球に関わりあえたか、『しょうがない』、あの便利な言い訳言葉を振り切って、どこまで喰らいついてついていったか、それで決まる。」 (P129)

■瑞希が透哉に語りかけるこんな場面。

「…甲子園で野球できるなんて夢の夢の夢かもしれんって。けどな、作楽、夢が現実になることってあるやろ。けっこう、たくさん、あるやろ。あると思うんや、おれ。最初っから諦めてたら夢は夢のまんまやで。…」 (中略) だいじょうぶだ。おれはちゃんと信じている。『しょうがない』に搦(から)め捕られてはいない。」 (P161)

■無力な経済の力で断たれた元のエース候補の部活仲間・豊志との突然の別れ。高校の統廃合の噂などに心揺さぶられながら彼は思う。 

「…負けたくない。運命とか現実とか得体の知れないものたちにも、野球の勝負にも負けたくない。『しょうがない』と諦めたくない。自分で自分をいなしたくはないのだ」 (P288)

◆ この熱い一直線の性格の瑞希のキャラクターに、遊び心を加味し、熱くなりがちな頭を冷やしてくれるのが、彼の部活仲間で理解者の、田上良治だ。
食いしん坊で、そつなく人と付き合いながらも、強情なところもある。
こういう奴、すきだな。

熱闘が繰り広げられる「未知の広場」である「グラウンド」。
野球に魅入られた瑞希たちの姿を描くことで、『しょうがない』を越えようと
命を燃やす姿が、魅力的で刺激的。


(あさのあつこ 著「グラウンドの空」角川書店 2010.7)

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命のリズムと祭り囃子は、どこかで響きあっている。
、生きる元気を身体の奥から呼び覚ましたり、懐かしい記憶を思い出させてくれたり、どこか、もの寂しいような感情も生まれてきたり、そんなことを読みながら思った。

◆ 末期がんの母・菅子を車に乗せて、ある事情で50年間帰っていない故郷に向かう沢田庄司。
車中で初めて知る母の生きてきた道。生きる分岐点にでてくる祭り囃子の思い出…。(「ヤッテマレ」)

◆ 初めて大綱引きに加わった時傍で、助けてくれた憧れていた人の思い出…。(「ジョヤサノ」)

祭りのお囃子と人間模様の交錯を描いた8編を収録。祭り会場と作品名は次の通り。
青森五所川原の立ねぷた祭り「ヤッテマレ」。秋田刈和野の大綱引き(「ジョヤサノ」)。沖縄のエイサー祭り(「ハァーイーヤア」)。岐阜郡上八幡の郡上おどり(「アソンレンセ」)。富山八尾町おわら風の盆(「キタサノサ」)。東京浅草鷲神社の酉の市(「ソレソレ」)。奈良阿紀神社のあきの蛍能(「イヨーッ!」)岡山西大寺の裸祭り(「わっしょい」)。

◆ ウキウキさせたり、思い出に浸ったり、一歩踏み出す力くれたりの様々な祭り囃子をめぐる物語。
祭り囃子と人の物語は、もっともっと、面白い物語を生み出す可能性があるのに、この作品集は、ありがちな話と、ご都合主義の場面が出てきて残念だった。
それでも「ヤッテマレ」は好きだよ。
この作品を、もっと丁寧な長編作品にしたら面白いだろうなと思った。
大好きな作家のひとりで、期待している分、もっともっとと思ってしまう。

(川上 健一著 「祭り囃子がきこえる」 2010.8 集英社)

「光待つ場所へ」というイメージが鮮烈だ。
三つの物語は、このイメージを集約した言葉のようだ。

◆(おはなし)
しあわせのこみち」大学二年生の清水あやめは、応募の多い一般教養「造形表現」の「自由に世界を表現する」という受講課題に「幸せの小道」という絵画を自信満々で提出する。しかし、優秀作品として初回に紹介された作品は彼女のものではなく田辺という学生のフィルムが上映され、その美しさに打ちのめされる…。

チハラトーコの物語」モデル業界に籍を置きながら、子供のころから他人に迷惑をかけない嘘をつき続けて「嘘の世界の住人」を自負している、29歳の千原冬子の話。

樹氷の街」江布北中学・三年生二組の合唱コンクールを巡る物語。
伴奏の倉田梢、指揮の天木、天木の友人・秀人、秀人の彼女で隣のクラスの椿、威圧感のあるクラス委員長の筒井美貴、目立たないが天才ピアニストの松永。倉田の伴奏力量に不安を抱えた状態でクラスの練習が始まる…。

◆(おもったこと)
しあわせのこみち」では、劣等感、優越感、優しさやひがみ、求める絵をより深く表現し尽くそうして、もがく画家の卵が、孵化に向けて新たに歩き出す姿が印象的。
「努力もしないで、何もしないでただ地位だけ欲しがったり、いつか自分が何者かになれると確信したり、その逆で始めてもいないのに諦めてる人たちが世の中にはたくさんいる」(P97)というフレーズが心に残った。


チハラトーコの物語」には「現実を生きるって、何だろう」という問いかけがある。
生きることに対する、ストレートなフレーズがあり、その姿が描かれるのが、この作品の面白さだと思う。
虚構と現実が交錯する。周りの人たちにうまく嘘を言い続けながら虚構の世界で生きているチハラトーコ。
現実の世界で、自分の書いた物語を認めてくれた教師・重森を好きになる千原冬子。
この交錯の世界を抜けて、千原冬子として自分を歩き出そうとするラストが印象的。

樹氷の街」人間の多面性が面白く描かれている。特に伴奏の倉田梢の描写。
泣き虫なのに負けず嫌いで、恋への強い積極性がある。
それぞれの中学生たちが、コンクールに向けた付き合いの中で、お互いに見えてくる清冽な光のようなものたち。

ストーリー展開に引き付けられて一気に読んだ。
また、楽しみな作家にあえて嬉しい。

(辻村深月著 「光待つ場所へ」2010.6 講談社)
※作者名の「辻」は入力できない文字だったため、簡易な文字で表記していることを、お断りします。

◆(お話し)
出来てから、半世紀がたとうとする古めかしい「辻堂ビルヂング」という雑居ビル。
そこで働き生きる人々の、笑いとマジとノスタルジーの六つの物語。

舞台は、コロコロ看板を変える(おでん屋、カレー屋、お好み焼屋、ホルモン焼き屋など)同じスタッフの、不味さが売り物のような飲食店「辻堂」(一階)。無認可保育所「あおぞら保育園」(二階)。学習塾「辻堂塾」(三階)。不動産会社の分室「HN不動産分室」(四階)。健康食品・グッズを扱う軍隊のような怪しげな体育会の会社「オーガニック・ヘルス㈱」(五階)。零細広告制作会社「辻堂デザイン事務所」(六階)。

◆フリーターだった加藤が、怪しげな体育会系の健康食品・グッズを扱う会社に就職する話「道祖神
◆無認可保育園・あおぞら保育園で働く56歳の無資格保育士・種田佳子の、働きがいへの目覚め…。「紙飛行機
◆学習塾・辻堂塾のアルバイト講師、大貫は、30歳を前に自分の生き方に悩む…。「サナギマン
◆HN不動産分室7年目の桜井は、繰り返しのような毎日の電話営業の仕事に空しさを感じる…。「空回り
◆零細広告制作会社で働く江草は、会社の仕事のやり方に風穴をあけようとする…。「風穴
◆一階の飲食店で、謎の外国人・ガンジャと一緒にいる老人・コースケが、振り返るビルヂングの前史と今と未来…。「居残りコースケ

◆(思ったこと)
一番、印象に残った話は「サナギマン」。
辻堂塾のアルバイト講師、大貫が、当初抱いた司法書士への夢。
なかば諦めていたその思いと、塾の教え子・ヤマトが彼に語る相談。
子供二人を抱えた母子家庭の子供ゆえの小学四年生のヤマトの悩み。
その悩みが、大貫には辛く痛い。
小学生なのに、自分の進路を悲観的にとらえ「諦める」という感情を抱いているヤマト。
その思いを、全力で否定したい大貫は思う。
諦めかけている自分自身の夢への思いの再生と、ヤマトの諦めを否定したいという思いが、大貫の中でダブってくる。
その両方の諦めを変えたいと、精一杯の行動をする大貫。

「シュートを打たなきゃ、ゴールは決まらない」。
彼の言うありきたりな言葉が、そのとうりだよなぁと思う日もある。

(三羽省吾著「路地裏ビルヂング」2010.7文藝春秋)


本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
 よろしく!

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