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(お話)
◆ 人形を操ってチェスをする、伝説のチェスプレーヤー・リトル・アリョーヒンの物語。
決して、華々しくてカッコいい、逸話をもっている主人公ではない。
彼をとりまく暮らしは、哀しい別れに彩られている。
両唇がくっついた出生。
その手術で、脛の皮膚を移植し、唇に産毛が生える、それがもとで、いじめにもあう。
子供の時、両親が離婚し、同居した母親が突然亡くなって、祖父母に育てられる。
祖母に連れて行ってもらった、デパートの屋上にある立札が伝える象の話。
大きくなりすぎて、地上に降られなくなって、37年間、屋上で子供たちに愛嬌をふりまいて
一生を終えた象・インディラに、彼はいろいろな思いを巡らす。
そして、彼の住まいと隣家の狭い隙間に入って出られなくなった女の子が、人知れずミイラになり、今も壁に食い込んでいるという噂話に、寝る前のひと時、壁にいるというミイラに話しかける。
会ったこともないインディラとミイラが、子供の時の、彼の唯一の友達だった。
彼は、二人に思いを巡らせて、架空の会話を交わす。

ひょんなことから、バス会社の独身寮のバスの廃車に住む、寮の雑用係の男から「チェス」を教わる。
やがて、男のことを「マスター」と呼ぶようになる…。
リトル・アリョーヒンの生涯を描く、静かであたたかい物語。

(思ったこと)
◆ 暗く哀しい別れや出来事が、リトル・アリョーヒンに次々と降りかかる。
それでも、読後感は、ほんのりと温かい。
それは、彼が人の気持ちや命のことを、深く思いやり、読みとり、思いを巡らせる豊かな人だから。
彼はチェスに、試合に勝つ技巧だけではなく、一手一手の中に、音楽の音色を聴き、美しい色彩をみる。
そして、哲学も読み取る。チェスを教えてくれたマスターゆずりのチェスだ。

こんな一節がある。
「チェスは、人間とは何かを暗示する鏡なんだ」(76)
「相手が強ければ強いほど、今まで味わったこともない素晴らしい詩に出会える可能性が高まるんだ」(99)

もう一つ思ったこと。
人の「幸せ」と「哀しみ」。
二つは、明快に線を引いて分けられるものではなく、哀しみの中に「幸せ」があり、幸せな中にも「哀しい」出来事もある。二つが溶け合って、生は流れていくのかもしれない。
哀しみの真ん中にいても、歓びを紡ぎだす感性だって人は持てる。そうありたいと思う。

「慌てるな 坊や」という、マスターの幻の声が、ボクにも聞こえてくる。
心に響く言葉に出会えることも、小説の醍醐味だ。
平凡な言葉でも、作品の中の魅力的な人物が言うと、特別な言葉になって心に響く。宝物のような言葉になる。
自分を無見失いそうなとき、そんなマスターの言葉を、思い出すと思う。
「慌てるな 坊や」。

 何度も読み返したくなる。一人ひとりの人物に、血が流れている。命の鼓動が聞こえてくる。
豊かな言葉と、物語の面白さがつまった希有な傑作。


(小川洋子著 「猫を抱いて象と泳ぐ」 2009.1文藝春秋)


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本命くじら

Author:本命くじら
 本が好きです。自然も好きです。
人間という生き物にキョウミシンシン!
本は快楽。本はエネルギー。…ってことで。
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